アクセシビリティ - overview


「アクセシビリティ」は、障害者や高齢者、非識字者など、日常生活や教育、就労に困難を持つ人々が充分に能力を発揮することのできる社会――インクルーシブな社会を実現するための技術分野です。その歴史は古く、たとえば今では誰もが使っている「キーボード」「文字認識」「音声合成」といった技術は、元々は障害者支援のための技術開発を目指す中で発明されたものです。IBM東京基礎研究所は、日本語音声の認識・合成、デジタル点字、音声Webアクセス、クラウドソーシングなどの技術開発を通し、この歴史の一端を担ってきました。現在は、図書やインターネットへのユニバーサル・アクセスを実現する「情報アクセシビリティ技術」、日々の暮らしや仕事を支える「コグニティブ・アシスタント」、様々なビジネス応用を可能にする音声解析技術を含む「スピーチ・テクノロジー」などの分野を中心とした技術開発に取り組んでいます。また、研究開発での成果や知見をふまえ、業界標準の技術指針を策定する標準化活動等への貢献もおこなっています。

 

情報アクセシビリティ技術

IBM東京基礎研究所では、およそ30年間に渡り、情報技術の力で多様なニーズを持つ人々の社会参加をサポートするための様々な技術を生み出してきました。1980年代に開発した点字ワープロやデジタル点字共有システムは、現在もデファクトスタンダードとして広く使われています。1997年には世界初の実用的な音声Webブラウザである「IBMホームページ・リーダー」を、2000年代にはWeb開発者向けツール「aDesigner」やインターネット閲覧支援ツール「Easy Web Browsing」を開発しました。現在は、インターネットを介して多くの人々の力を集める「クラウドソーシング」によってアクセシビリティ向上を目指す「クラウド・アクセシビリティ」の考え方を軸に、視覚や聴覚に障害を持つ人々の情報アクセスを支援するための新たなサービスの開発に取り組んでいます。

コグニティブ・アシスタント

IBM東京基礎研究所では、IBMリサーチが提唱するコグニティブ・コンピューティング研究の一環として、障害者・高齢者のモバイル端末利用や生活環境・仕事環境の向上をサポートする様々な「コグニティブ・アシスタント」の研究開発に取り組んでいます。「コグニティブ・アシスタント」とは、一言でいうと「身の回りの物事の理解を手助けしてくれるコンピューター」のことです。各種センサーを内蔵したモバイル端末の普及、音声認識技術や画像認識技術の精度向上により、インターネットのような情報空間の枠を超え、コンピューターが日常世界を認識できるようになってきました。また、いわゆるビッグデータ解析技術の進歩により、コンピューターは人間の知識を補完する有力なパートナーとなりつつあります。それらの技術を組み合わせた「コグニティブ・アシスタント」は、障害者や高齢者の感覚機能、身体機能、認知機能を補い、新たな形の社会参加を生み出す力となるはずです。

スピーチ・テクノロジー

「音声認識」は人間の声をコンピューターで解析し、発話内容を文字に置き換える技術です。IBM東京基礎研究所では、1997年に他社に先駆けて日本語大語彙連続音声認識ソフトウェア(IBM ViaVoice)を実用化しました。当時は雑音の少ない環境で明瞭に読み上げられた音声だけが認識の対象でしたが、その後の研究の積み重ねによって要素技術が成熟し、現在では人と人との会話のような自然な発声も認識の対象となってきています。研究の成果は、コールセンター業務への応用、スマートフォン向け音声認識、カーナビへのコマンド入力などさまざまな領域で実用化されています。IBM東京基礎研究所では、音声の認識・合成・分析を中心とした音声技術について、あらゆるビジネスシーンでの実用化を目指した基礎研究をおこなっています。

障がい者就労支援

IBM東京基礎研究所では、これまでの研究開発を通じて得られた知見やソフトウェア・アセットを活用し、人事ダイバーシティ部門と協働することで、障がいのある方の就労を支援する各種取組みも行っています。障がい者雇用の新しいモデルとベスト・プラクティスの創出を目指して、志を共にする約30の大手企業が集まる「一般社団法人アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)」や、障がいのある学生を対象に実施している、最新のビジネスとITの実践的知識をカリキュラムに組み込んだ画期的なインターンシップ・プログラム「Access Blue(アクセス・ブルー)」などです。これらの取組みの中では、最先端のコグニティブ・ソリューションであるWatsonのサービスの1つとして実用化されている、音声認識技術「Watson Speech-to-Text」を用いて、障がい者就労のあり方をITで進化させるための実験的な試みなどを行っています。

 

標準化活動等への貢献

IBM東京基礎研究所では、研究開発上の知見をふまえた標準化活動への参画や開発成果物のオープンソース化を通し、研究成果の社会還元に取り組んでいます。日本のWebアクセシビリティ標準規格であるJIS X 8341-3、国際標準化団体であるW3CWAIHTML WGへの貢献はそうした取り組みの一例です。また、Accessibility Tools Framework(ACTF)は、2007年にEclipse 財団に寄贈されたアクセシビリティのためのオープンソース・ソフトウェア基盤です。ACTFを活用すれば、aDesignerのようなアクセシビリティ・ツールを効率よく作成することができます。aDesignerは、アクセシビリティの専門家でないWebサイト制作者のための視覚化ツールであり、総務省の標準アクセシビリティ評価ツールであるmiCheckerのベースともなっています。これらの活動は、すぐれたアクセシビリティ技術を「いつでも」「どこでも」「だれでも」利用できる社会の実現や、関連技術の発展にも大きく寄与しています。